第11回:マルタン履物店店主 丹下英子さん

『店主に聞く!』今回の店主は、勝川で50年以上履物店を営んでおられるマルタン履物店 店主の丹下英子さんです。

履物屋という商売

本日は宜しくお願い致します。 まず、この店はいつから始められたんですか?

主人が結婚前に始めたんだけど、もう50何年前になるかな?

 

長いですね。もう半世紀ですね。

でも50年っていうけど、何やってきたか分からんのよね。ただ、一応職人だから技術が身についているわけね。

あの、履物の鼻緒を作ったりとかそういうことを全部ご自分でされるんですよね。

そうそうそう。 だから直しもできるし。そういう技術っていうのはおいそれとはできないね。うちの娘が(そういう技術を持っていることを)ちょっとだけ威張ってもいいのよって。

今は使い捨ての時代ですからねぇ。

だけど最近は大分戻ってきましたね。 直して履いたり鼻緒を変えたりね。 今日さっき持って行っちゃったんだけど、こういう古くなって鼻緒が駄目になった草履をお客さんが持ってきて、私が鼻緒をつけたりね。 

 

やっぱり昔からお母さんの形見を受け継いだりとかで昔から履きつがれてきて、なかなか捨てるのももったいないですよね。
一番先に下駄を買いに来たお客さんには、まずお母さんが下駄を持っているかどうかをきくわけね。お母さんが持ってるなら、じゃあうちにその台をもってらっしゃいって言うのね。その台の鼻緒だけ取ってすげ替えをしたりそういうこともね、一応そうやってかろうじて今に繋がっている

昔のものは作りがしっかりしているものが多いですよね。

そうそう、何でも昔はよかったね、今はちょっと雑だもんね。高いだけで。

ちょっと手を加えてやればすぐ生き返るというか。

そうそう、変わった感じで生き返るから。何でもかんでもいいの買い替えなくてもいいからさ、そうやって履いてもらわないとね、もったないでしょ?まあ、もったいないという言葉は今の若い人にわかるかわからんかは知らんけど。
どっちにしても、古いものを新しくチェンジしてみんなに生きて履いてもらった方がいいでね。最近は若い人でもそういうのが増えてきたね。

今古着なんかも、お父さんとかお母さんのお下がりを、着物なんかもそうでしょうけど、それを手直しして来たりする若い人も増えているみたいですね。

そうそう、それを作ったり、生かしたりするからね。

時代は巡るというやつですね。 

でも、昔ほどじゃないけどね。一時、5,6年前に着物ブームってあったでしょ?もう10年ぐらい前かな?
あのときは女の人より男の人の下駄が売れたからね。 そういうブームの時もあったから、またもどってこんかと思ってるけどなかなかだわね。  
下駄っていうのは、別に着物じゃなくてもこういう格好(とインタビュアーの身なりを示す)で履いてもいいんだわね。別に着物を着なくても。男の人は何でかんで着物に結び付けちゃうね、この前の男の人が下駄を買いに来て、これ買ってもあまり着物着ないからどうしようって、 だから、夏履きなさいって。

確かに下駄ってやっぱり夏っていうイメージがありますね。

結局ね、冬っていうのは靴下履いちゃうのよね。いま5つの指の靴下もあるから
いいけれど、そうすると履きにくいわけだ。そうすると、やっぱり素足。

夏なんか、浴衣に下駄で花火に行ったりする若い人も多いですよね。

Tシャツ着てGパン履いて、下駄履いて番傘持つのがいちばんかっこいいじゃん?でしょ?わたしはいつもそうやって教えてあげるんだけど、いま番傘がこの辺に売ってないから。

そういうスタイルが却って目立ってかっこいいかもしれませんね。

お客さんに同じ顔で接するということ

50何年前っていうと、1960年代の当時は高度成長期で景気が良かったのでは?

そうそう、よかったよかった。当時はとにかく店を開けたら客が来るって言うね、 そのときに一番印象に残るのは、うちの開店3年目だか4年目だかの記念の売出しのときに、一斗缶が札でガーッと一杯になったからね。あれもういっぺん狙いたいんだけど、まあおそらくね(無理だろうね)。まあとにかくそういう時代だったね。  
そのかわり、努力もしたよね。お客さん第一で大事にして。
オイルショックの時、石鹸とか鼻紙とかそういうものが無くなったときに、お得意様しか売らないという話をよく聞いたわね。そういうのは根性悪いと。だけど、そうじゃなくて、お客さんには年中おんなじ顔しとらなかんわけでしょ。不景気のときも景気が良くても。

オイルショックのときは靴とか下駄にも影響があったんですか?

関係あったね。ゴム製の靴とかね。でもうちは商品を出し惜しみしたりとかは一切しなかったからね。私の信条は、365日、同じ顔をしたいと。 怒っとるんなら怒っとるでいいし、笑っとるんなら笑っとるでいい。とにかく裏腹の無いようにしたいなと思って自分で気にかけてやってるけど、どうですかね?分からん ?

 

あー分かります分かります。

でも、同じ顔したいなということだけでさ。これなかなか難しいときもあるんだよ。調子悪い頭痛いというときに、お客さん来たらピッと治るでね。これは不思議だね。長年商売やっとるというのかね。 
だから、怒っとるとかそういうことなしにね、普通の顔。中にあるでしょ、お天気屋というのが。 いままで機嫌が良かったと思ったら、ぱっと変わる人がおるけど、あれが商売には一番ペケだな。と思うよ。でも難しいことだでね。
やっぱりなんでもいいでハート。大きい人から小さい子供まで、やっぱりプライドがあるからね。おばあちゃんだから子供だからといってバカにしたり、そういうことじゃなくて、いままで普通に隔てなくやってきた。それだけは自信をもって言えるね。
だから、商売で大切なのは、親切にするってことかね。それがいい意味のくせになっているから。
それから、お客に「(新品を)買わなくていい」って言うの。その代り「直そか?」って。履けるうちは直して履いてもらうようにすることかね。
で、一応そういうことでやってきたわけ。

気が付けば50年

今しゃべってて考えてみると、うちの娘の歳が○○歳で、旦那がひとりでやってた時代も入れると、もう60年ぐらい近くやっとりゃへんかね?

そうすると創業が1950何年ってことですか。凄いですね。ご主人はいつ頃亡くなられたんですか?

主人は平成11年になくなったんだけど、主人には厳しく仕込んでもらいました。

嫁に来たときは鼻緒のつけ方も何も分からんかったわけだから。それをやれるようにしてもらったから、私ひとりで商売できるようになっただけ。これお父さん任せでやっとったら、駄目やね。だから、出しゃばりもたまにはプラスになるってことじゃないかな。「お父さんに任せとけんで私がやるわ」と。まぁ、うまいこと向こうにやられたんだけど(笑)

お二人で二人三脚でやってきたからこそ今があるということですね。

うちのお父さん、碁が好きでね。この近くに碁を打つ店があって、この店にはほとんどおらんかったの。

奥さんにまかせっきりで(笑)

だからうまいことやられて、お父さんは私を仕込んでまかせちゃったってこと。だから私が今一人でもやっていけるだけでね。普通だと二人三脚でお父さんとやってくっていうと、頼り切りになっちゃったりするけど、今から思うといい意味のかたちじゃなかったかな。

今から思うと50何年よくやってきたと思うけど、すごい時間をやってきたという感覚はなくて気が付いたら自然にきちゃった感じ 
まあそれと、やっぱ人が好きじゃなきゃできんでしょ。
十人十色というけれど、いろんな考え方の人がいる
店やっとるといろんな人に出会う。まだまだはっきりいって勉強だでね。
あ、こんなこともあるわとか、こういういい方もあるわとか、いろいろあるわけでしょ。

日々、接客の実践を通して勉強させてもらっているわけですね。

そういういい意味のいろいろを自分にプラスにしていかんとね。もう私たちは卒業だけどね。はっきり言って。

こんにちはー。
  (お客さんがみえたのでインタビュー中断)

あら、いらっしゃい。今日はお出かけ?

イ○ンにちょっと買い物の帰りでね。

あんた、こういうの好きだからこれにしとけば?これ、いくら?

(品物を渡しながら)ごめんね。600円になります。

(意外な安さにうれしそうに)あ、ホント?そんな安いの?
あんた、いい色があってよかったがね。 
うん。

ありがとうございます。ごめんね。ちょこっとだけ(600円といいつつ1000円のおつりで500円渡す)

悪いね。いい年を迎えてね。
ありがとうございます。奥さんも旦那さんもね。
  (お客さんが帰ってインタビュー再開)

今の常連さんですか?いい関係ですね。

そうでしょ。うちに来るのはみんはああゆうお客さんばっかり。
本当だったらイ○ン行って来たら、そこで買えばいいのにわざわざうちで買ってくれ
る。

イ○ンで気に入ったものがないからでしょうか?

いや、そういうことじゃないと思うよ。 イ○ン行きゃ沢山あるもん。完全に気に入るものもある。でもわざわざうちに来てくれるという風にとらな。

どうせ同じようなもの買うのならこっちで買ってあげようと。
やっぱり結びつきというのはさぁ、気持ちだもんね。お互いにね。だから今のお客さんでも、私はありがたいと思わなかんしね。むこうもああやって来てくれてるわけでしょ。
だからお互いに、向こうもこっちもいい気分になるでしょ。今のお客さんは今年最後だから、ちょっとでもサービスしてあげれればいいかなと。ま、しょっちゅうはできないからね。でもいまは自分からまけてくれという客はおらんね。ありがたいことに。
弘法市は普段よりお客さん多いですか?
多い多い。弘法市のときだけはね。踊りのときとか、このまえのハロウィーンの時は全然だったけど。
弘法市はやっぱり年配の方が多いせいでしょうかね?

そうそう。それ待っとってくれる人もいるからね。
弘法市の時の売り出しは、弘法様とうちの持合いだもんね。
いつも私お客さんに説明するけど、弘法様があって、お客様も賽銭としてうちの物買って、うちも賽銭としてお客さんに勉強するというかたちで商売やらさせてもらっとるわね。

(インタビュアーが寒そうに手を擦っているのを見て)
寒いでしょ?うち全く火の気がない、戸も全開でやっとるで。

ホントに寒いですね~。
ほんでこんなへっちゃらでやっとるでねー。

「商い」は「飽きない」

最後に一言、何か言いたいことがあればお願いします。
ただがんばってやっとるというだけだわね。淡々と。
ただ、さっき言ったみたいに、「気持ち」、真心ね。
お客さんとハートで付き合うという事かね~
365日同じ顔しようよねって自分に言って聞かせるというぐらいかな。
とにかく愛情こめてやらないとね。あ、これってなんか月並みかな?
そんなことないですよ。
ただね、商売は「あきない」っていうでしょ。いっぺんも飽きたことはないでね。 
あ、これ大したもんやに。どこの商売人でもそう言うと思うけど。飽きずにやっとれる。で、こういうふうに続いとると思うよ。だから飽きずに淡々とやるのかな。と思うよ。
今日は色々と興味深い話をありがとうございました。 

時代がどんなに変わっても、時代に流されず、単なるモノの売買ではなく、真心のこもった商売を半世紀以上も続けてこられた丹下さんのお話には、とてもが含蓄深く、商売人とはかくあるべきというお手本を見せていただいたような気がしました。

ご自宅に古い履物をしまわれている方は、一度マルタン履物店さんでリニューアルしてみてはいかがでしょうか?


【インタビュー・構成・撮影/松浦 成隆(弘法PCサロン)】

マルタン履物店

営業時間 10:00~17:00
電話(0568)31-4934
愛知県春日井市旭町1-1

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