第八回: 崇彦寺住職 林崇彦さん

 

『店主に聞く!』第八回目も、特別編『住職に聞く!」です。
電気屋の店主からお坊さんに転身された異色の経歴をお持ちの
崇彦寺のご住職、林崇彦さんに
沢山お話を伺いました。今回は〈後編〉をお送りします。


『死にものぐるいで』

奥様が亡くなられた事がきっかけとは言え、今までのご商売をされていて急に仏門に入るというのは
相当な決意が必要だったと思うのですが。

そうですね。
やっぱり連れ合いが亡くなりますとね、もう何にもいらん、と。
もう、とにかく楽にね、あの世に一緒に行ってしまいたいという気持ちだったんですよ。
だけど、それではいかん、と。
それでは家内の菩提もつとまらんし、せっかくここまで商売をさせて頂いて、
何か社会に対しての恩返しをね、していかないかんという気持ちはありました。

それから奮起して、とにかくお大師さんを再建して、で、沢山の方がお大師さんのご利益を頂いて
お課業を頂いて、お互いが、社会が、良くなって行くようにと。
ですから自分のためにやるというのは誰でも簡単にやれますが、
まずは“利他業”・・・利益を他人に与える業ですね。で、自分の為にやるのは“利自業”と言うんですが。
でも、それは仏さんなりお大師さんがね、ちゃんとそういう風にはからって下さるんです。
自分の事を考えなくても社会の事を考えていけばね。


高野山での修行というのはどれくらいの期間なのでしょうか?



100ヵ日。正式には105日ですけども。
それはね、毎朝2時くらいに起きましてね、夜の8時までびっしり色々と“行”があるわけです。
まず顔を洗って綺麗に体を清めて、3時から行に入って4時5時に終わるんですけれども、
これは朝の行です。
それから6時から朝のおつとめに出ます。で、帰って来てからごはんを頂いて
それから昼までの行があって、それからまた昼からの行があって、で、夕方のおつとめがありますから。
その間に勉強もしなければいけませんしね。分からん事ばっかですから。



高野山で修行されていた時、周りは若い人ばかりだったんでしょうか?



そうですね。高校生とか大学生とか若い人が多いですよね。
わたしは70(歳)でしたからね。
師匠にね、「あんた、もうええからやめといたらどうか」って言われました。

 

(一同 笑)

「いや、どうやっても僕は僧侶になります」と死にものぐるいでやりました。


70歳でお坊さんになろう、という人は少ないですよね。

ええ、少ないですよ。ま、だいたい60までですよね。


途中で「もうやめようかな」と思う事はありませんでしたか?
そうね。
家に帰って来れば、まあなんとか食べていけるし、と思った事はありました。
で、正直な所ね、このお寺を建てる前にお店を4軒売ったお金がありましたから、そのお金で
マンションでも建てようかなと思ったんです。
田舎のほうでもね「マンション建てて、左うちわで楽にやったらどうや」と言われていたんですけども。
ま、だけどそんな事をしていては家内も一生懸命働いてくれたんだし、
世間の方にもお世話になって今があるんだから、と思いやめたんです。

考えてみると、こうしてお寺を建てて良かったと思っています。
人間はね、どっちみち一人で産まれて来て一人で死んで行くわけなんですよ。
何にも持って行けるわけでは無いんです。ですから、それなりのお返しを
少しでもしていかなきゃいかん、という事です。

『入我我入』

今月(インタビューを行った10月)、商店街の店主が集まって、
こちらでご祈祷とお祓いをして頂いたんですけれども・・・、
今まではあまり商店街としてお参りに来る事は無かったんですよね。
それは各個人の問題で、それぞれがお参りに来る、という感じでした。

そうそう、はい。


一応、この商店街も“駅前通商店街”という名前から“弘法通商店街”という名前に変わったんですが、
その辺りについて何か思われる事はありますか。

大変ありがたいですね。
“大弘法”とかね、お大師さんの名前を使って頂けばそれだけ宣伝にもなりますしね。
現代は宣伝の時代ですから。
それによって“弘法通商店街”という名前なら弘法様が居られるんだろうと思って頂けますしね。

まあ、でもお大師さんは造幣局では無いですからお金は作らないんですよ。

 

(一同 笑)

ですけどもね、心はね、授けて下さる。
ほんとにその辺はね、“入我我入(にゅうががにゅう)”と言ってね、
お大師さんなり仏さんの中に入り込んで仏さんに「助けて下さい」と言ってすがりつけば、
お大師さんなり仏さんは自分の中に入って助けて下さる。
お大師さんと仏さんと我々とが距離があってはいかんのです。
距離を無くしちゃって、一心同体のような形になってお願いをする。
そうする事によって、仏さんは「じゃあ、やってやろうか」という事になるんです。

確か3、4年くらい前に、大弘法の像を綺麗に直されたと思います。


はい。2回直しましたけどもね。
1回目の時に少しひび割れが入って来たもんですからやり直しましてね。
もう今は完全に近い状態になっています。
やっぱり仏さんというのはお力を持ってもらう為に綺麗にね。
綺麗だとみんなが参ってくれるけど、汚いとあまり参らない(笑)ね。

まあ、人間の心理というのはそうじゃないかと思いますけども。
やっぱりそれだけの誠意を尽くせば必ずそれだけの見返りはね、必ず来ます。
これはお金じゃなくて精神的にもね。色々な面でそういうものは頂くんです。

で、お大師さんというのはね、人間なんですよ。元々は空海という名前ですから。
お大師さんというのは、とにかく人のためにやらないかん、という事と同時に
即身成仏と言ってね、自分が仏さんになりなさい、というこの教えがね
真言宗の一番大きな教えなんです。
「お前も仏さんで、わしも仏さん」というような感じのね、相互に拝み合うという心で。
この“即身成仏”と言うのが、親しまれた大きな一つの根本かもしれないですね。

崇彦寺で“四国のお砂踏み”をやっていますが、いつから始められたんでしょうか?

あれはね四国を回ってね、お砂をずーっと頂いて来たんですけどもね、八十八箇所をね。
10日くらいかかりましたけどね。


今、後継者の方もいらっしゃるんですね。


私の姪の旦那なんですよ。建築会社をやっていましてね。
経営は兄貴がやっていて、彼は専務で。
それでやっていたんですが、兄貴の息子が3人大学を出て会社をやれるようになったもんですから、
邪魔になるし、と身を引いて辞めたんですね。

しばらく遊んでおったんで、ま、ウチに来てくれって事で。で、来てくれたんですけども。
姪はね、「おじさんに騙された、騙された」って言うんですけども(笑)
彼はね一生懸命で物凄く親切なの。本当に優しいですね。
言わなくても全部やってくれる。その辺は本当にありがたいと思っています。

『さりげなく』

(インタビューの前に頂いたご住職の半生を綴った小冊子を拝見しながら)
奥様について書かれている所がありますが、何だか仲の良いご夫婦だったんだろうな、と
想像してしまいます。

自分の家内の事を褒めてはいかんですけども、絶対に「辛い」とかそういう事は言わなかったですね。
人の悪口もね、絶対言った事が無いんですよ。
「人の悪口を言う人は嫌だ」という性格でした。

そうすると、お若い頃でも喧嘩は無かったんですね。


え、喧嘩?
そりゃ、たまにはある(笑)

  (一同 笑)

無いと刺激が無いですからね。


それでは最後に、大弘法様にこれから参拝に来られる方に何かメッセージやお伝えしたい事がありましたら。

これはね、あの、強制するものでは無いからね。
強制すると逆に拒否反応を起こすものですから、人間というのはねえ。
まあ、自然の形で、縁のある方は自然と来て下さって喜んで頂く、という事です。

で、人間というのはね、儲かる事があれば蟻の様に来ますけどもね、儲からんと
ぱあっと散って行っちゃうのね。
商売でもそうですけど、例えばほうれん草が10円だとかね、そうすると“得した”とか“儲かった”
と言ってまた次も行くんですけれども、そういう感覚は宗教では難しいですね。
例えば、来て10円お賽銭を入れて家に帰ったら100円になっていた、
という話ならね(笑)いいんですけど、そんな意味じゃなくて、心の安らぎですかね。
そういうのが自然と芽生えてくるのが“本当”ですね。
で、最高の幸せというのはね、私も長い人生を送って来ましたが
やっぱりね、人様に施しをして喜んで頂くという事がね。
例えば、今日も4人さんが来て下さって、うちのつまらん話を聞いて下さったと。
「ああ、今日は良かったな」という事でベッドの中に入って休んだ時にね、ホッとする。
これが一番の事なんですよ。

別にお金が貯まったとか、お供え物を貰ったとか、そんな事じゃなくて
やっぱり人に施しをさせて頂く、その喜びというのはね、もう最高にいいですね。

すみません、変な事を伺いますが、
逆にご住職が「あれをしたい」「これをしたい」というような・・・
“欲”と言うものは今あるんでしょうか?

それはもうね・・・無いんですよ(笑)

でもね、私の心境はね、

『頼まなくても花は咲く
 頼んでも散ってゆく
 そよ風に誘われて
 さりげなく余生を過ごしたい』

という事です。欲も何もありません。

本日は長い時間ありがとうございました。


 


現在、87歳になられたご住職。
お坊さんになられる前はお店を経営されていたという事もあって、面白いお話を沢山伺う事が出来ました。
勝川の商店街を見守っていて下さる大弘法様。近くに来られた際は、ぜひ会いに来て下さいね。



【インタビュー/宮島一聡(糸美屋)  インタビュー・構成/松本純一(INMYLIFE potemkine) 
 撮影/山口 哲(写真のヤマグチ) 協力/松浦 望(弘法PCサロン)】

 

高野山真言宗持明院 
勝満山 崇彦寺 (しょうまんざん しゅうげんじ)

電話(0568)34-9978

愛知県春日井市若草通1−3


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